ここまで「課金形態」について書いてきましたが、今回は業界の「分業化」について触れたいと思います。
人材紹介業は「労働集約」産業です。
「労働集約」産業とは、生産要素に占める資本の割合が低く、人間の労働力に頼る割合が大きい産業のことをいいます。機械やシステムよりも人間の手による仕事量が多い産業ということですね。
代表例は第一次産業である農業や漁業ですが、第三次産業であるサービス業や流通業もこれにあたります。そして人材紹介業もサービス業であり、まさしく「労働集約」型なのです。
そもそも業界は「人を介した」サービスと謳っています。
AIなど昨今の技術革新は目覚ましいため、業界が今後どう変化していくかは見通せませんが、少なくとも現在はまだ、システムでは満たしきれない「人を介す」顧客ニーズが存在しています。
それゆえ事業者は「より多くの顧客の期待に応えたい」、端的に言えば「より売上を上げたい」と考えた際、とにかく人手が必要になります。人員を増やさなければ、事業拡大できないのです。
ただ世の中に業界経験者がそれほど多くはないため、増員するには、新卒採用か、未経験者をキャリア採用することになります。
そして未経験者を大量に採用した場合、彼らの早期戦力化、育成がとても重要になります。しかしこの仕事は変数がとても多く、熟練するにはそれなりに時間がかかるのです。
そこで生まれたスタイルが「分業化」です。
見渡せば、多くの大手人材紹介会社は、ほぼもれなく分業スタイルです。求人企業の担当者(リクルーティングアドバイザー:RA)、求職者の担当者(キャリアアドバイザー:CA)という分業はもちろん、さらには面談担当、マッチング担当、面接日程調整担当まで、分かれているケースもあります。
分業すれば一人あたりの業務範囲が狭くなることから、回転数を上げて経験値を増やし、スキルの早期習得が可能になります。またマニュアル化など、育成品質の均一化も図れます。
そして業務フローの一部を担当する「誰か」が退職しても、属人性が低い分、欠員補充し易いという効果まであります。
こう書いてくると、良いこと尽くめのようにも見えますが、これらはあくまで、事業者側、経営者観点での利点です。
問題は、このように業務を分業化するこで、顧客である求人企業、求職者への提供価値は上がるのか?ということです。
結論から言うと「問題が多い」と私は思っています。
業務分業化による問題とは「情報の精度」と「スピード」が犠牲になることです。
本来一人のコンサルタントが、求職者、求人企業の双方を担当していれば、両者をつなぐ際に情報は劣化しません。しかし担当者が複数に分かれ、伝言ゲームのように情報を伝達していくと、そこには必ず情報の劣化が生じます。
担当者が熟練であったり、顧客数がある程度に限られているなら、劣化は最小限にとどまるかもしれません。
しかし実際には、入社間もないコンサルタントが、3桁に迫る求職者や、求人企業を同時に担当することが常態化しており、双方の情報は大きく劣化してしまっている、というのが実情です。
また人を介せば介するほど、伝達スピードが遅れます。一本電話すれば5分終わるはずの確認に、数日から1週間ほどかかってしまうという、馬鹿らしいことが頻発しています。
これらは決して優先順位の低い問題ではなく、むしろエージェントが顧客に約束する、最も重要な価値の一部が犠牲になっているとも言えます。
長くなったので、次回に続けます。
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